凶悪犯


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「くらえっ、トドメだ!」
 
僕は背後に回り込み、素早くトリガーを引く。
 
ノズルから勢い良くガスが噴射し、
ヤツを仕留める・・・はずだった。
 
「クソッ、出ねぇ!」
 
まさかの展開。
 
そんな僕の異変を察知したのか、
ヤツはものすごいスピードでこっちに向かってくる。
 
異様なほど黒光りする油ぎった体、
顔から伸びた不気味にうごめく2本の長いヒゲ。
まるで感情などないような冷徹な眼。
 
なにものも嚙み砕く頑丈なアゴと、
あらゆるものを消化してしまう、溶解炉のような内臓。
 
とげとげしい6本の足の先には、
釣り針のようなカーブを描いた鋭い爪。
 
それに、圧倒的な、負のオーラ。
 
そのおぞましさに、僕は激しい恐怖を覚えた。
 
逃げ出したい気持ちを抑えて、
なんとかその場に踏みとどまる。
 
「ちくしょう、どうする?」
 
僕は辺りを見回す。
 
ラッキーなことに、
近くに新聞が転がっていた。
 
「これだ!」
 
手に持っていた、赤い鳥がデザインされた
白く丸い鉄製の筒を放り投げ、新聞を手に取る。
 
それを素早く丸め、右手に持ち替えた。
 
腰を落とし、重心を低くする。
 
「来い!」
 
ヤツは、一気にスピードを上げる。
 
身構える僕。
 
ものすごい威圧感だ。
 
と、不意にヤツが右に進路を変えた!
 
逃げるつもりだ。
 
「逃がすか!」
 
僕も一気に向きを変える・・・
 
ゴンッッッッ!!!
 
一瞬、目の前が真っ白になり、
次の瞬間、右側頭部を激しい痛みが襲う。
 
どうやら、机の角で頭をぶつけたらしい。
 
ヤツに気を取られ、
周りを確認しなかった僕のミスだ。
 
思わず手に持った新聞を放り出し、
患部を押さえる。
 
そして、苦悶の表情を浮かべながらも
ヤツを目で追う。
 
だが、もうそこに姿はない。
 
一瞬目を離したスキに、
ヤツは見えなくなってしまった。
 
まんまと逃げられたのだ。
 
後悔しても、時すでに遅し。
 
薄れゆく意識の中でつぶやく。
 
「ムシムシコロコロ、キンチョール・・・」
 
僕は今日、キンチョールを買いにいく。
家族の平和を守るため。
 
今度はもう、逃すまい。
 
僕には、家族を守る義務がある


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